

テンヨー 創業者:山田 昭(1931~2013年)
山田昭は株式会社テンヨーの創業者として、まだジグソーパズルという名前すら知られていなかった時代に輸入販売を始め、その後、国産化してジグソーの魅力を日本に紹介してきました。自らも大のファンで、いままでに山田夫妻が組んだピース数を合計すると300万ピースを超えます。これは、その超プロフェッショナルともいえるご夫婦による、組み方のテクニックのご紹介と、ジグソーパズル開発秘話です。
絵柄について
ジグソーパズルを楽しむために最初にすることはどんな絵柄を選ぶかです。
ほとんどのディズニーキャラクターの絵柄のように、最初からジグソーパズル用に作られ、細かい部分まで描き込みがなされている絵柄は、1000ピースの場合、私たちで5〜6時間で完成します。
初心者の方でも、1000ピース以下であれば最後まで楽しく組めるでしょう。一方、モノトーンの絵柄のような色による手かがりの少ないものですと、私たちで50時間以上かかるものもあります。難しい絵柄の場合、時間を十分に取ることが必要です。

今回遊び方をご紹介するために選んだ左の写真のようなジグソーパズルは、その中間、ちょっと難しい絵柄といえるでしょう。
一見やさしそうですが、空の中心部分となる約80ピース、お花畑にあたる約500ピースが手強そうです。もっとも、お花畑は、遠景と近景で花の大きさが違いますから、かなりの手がかりにはなります。私たちで9時間はかかります。(絵柄の難易度を検証するために、いつもデジタル・ストップウォッチを横に置いて測定していますが、押し忘れたり、消し忘れたりする事もしばしばで、なかなか正確には測れません。)
用意すると便利な道具
パズルを組むときに、下に敷くボードがあると便利です。私は、ポスターなどが貼れる市販の発泡スチロール板をカットして利用しています。パズルのサイズに合わせて何種類か用意しており、写真は、 500、1000、2000ピース用のものです。パズルのサイズよりひと回り大きくカットしているので、組んでいるときに端からピースが落ちることがありません。軽いので、移動の際も大変便利です。
さらに、何枚かの発泡スチロール板をカットして、写真の様に色々なサイズのパネルを複数枚用意しています。これらは、まだ組んでいないピースを分類して並べるのに大変便利です。横に長いパネルがあるのは、目を上下に動かすより左右に動かす方が楽だからです。ピースを左右に長く広げて整理する事をお勧めします。
ジグソーパズルを楽しむ場所
ジグソーパズルを楽しむには明るい場所を選んでください。自然光が入る所であれば光が背中から射す場所、夜、楽しむのでしたら、天井の明かりの中心があなたの頭の少し前に来る場所を選んでください。光の反射が目にはいると、ピースを選ぶ時、目が疲れやすくなります。
まずはピースの分類から
それではジグソーパズルを始めましょう。組み方のテクニックをお伝えするために、ちょっと難しい絵柄を選んでみました。
最初にすべてのピースを枠、空、花、緑、境界線に大別します。
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直線の端がある枠となるピース
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花のピース
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緑のピース
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いくつかの色が混じりあった境界線のピース
ピースの分類が終わったら、普通は枠の部分から組み始めますが、組みやすい部分から始めてもかまいません。少しでも早く絵柄が見えてくると、完成への目標ができて、より楽しくなってきます。ここでは、いちばんピース数の少ない部分から組み始めることにしましょう。緑と空の境界線、緑と花の境界線など、はっきり分かる部分から組み始め、緑の部分を完成させます。
次にピース数の少ないのは空の部分です。色の変化が少ないので、より多くの情報を得るために、枠となる部分を組んでしまい、そのあと空全体を完成させます。雲の白い部分を手かがりにしますが、手こずったら、このあとの変形ピースの分類をお勧めします。
ピースの形からの情報
さて花の組み上げに入りますが、ピースの数がかなりあるので、さらにピースの分類を行います。ピースはその形によって、下記の種類に分類できます。花のピースの合計は600ピース近いと思われますので、まず基本ピース、変形ピースに分け、さらに変形ピースを写真のように分類します。
- 凸が四つある
- 凸が三つある
- 凸が隣接した二辺に二つある
- 凸が一つ
- 凸がない
- 凹凸のない辺がある
変形ピースが入る場所がみつかると、必ずその周辺に変形ピースが一つ以上入ります。そして凹または凸が二つ以上続いていれば、そのどちらかに必ず変形ピースが入ります。例をあげて説明しましよう。下の写真1では、凹が連続しており、いずれかに必ず変形ピースが入ることになります。変形ピースの中から、まん中の凹に入るピースをみつけました(写真2)。それを入れたのが写真3ですが、左側にもう一つの変形ピースが入ることが分かります。このように変形ピースは多くの推理の手がかりとなるため、全体のピースの中で変形ピースが多くなればなるほど、パズルを組むことがやさしくなります、そこで当社のピースデザイナーは、もっとも適切な難易度として、1000ピースの場合で約30%と決めています。
ジグソーパズルはカードゲームの“神経衰弱”
同じ数の2枚のカードを当てる“神経衰弱”と同じように、ピースを整理して行くと、覚えようとしなくとも自然に特色のあるピースの形が頭に入って来ます、整理したピースが減ってきたら、整理をくり返します。同じように見える基本ピースの場合でも、左右の辺の長さの違いや、凹凸のついている位置の違いなども、形から得られる情報のひとつです。
絵柄からの情報
ジグソーパズルの組み方には、ピースの形から進める推理と絵柄から進める推理との2通りがあります。下の写真を見ると、絵柄によって、遠い花のピース、近い花のピース、そしてピースの縦横の向きまで判断する事ができます。
遠い花のピース
近い花のピース
私はピースの形から進める推理が得意ですが、妻の輝子は絵柄から進める推理が得意というように、個人差もあるようです。組んでいる部分の絵柄によっても、その両者を使い分けるとよいでしょう。以上、ジグソーパズルのテクニックを説明しましたが、その遊び方は全く自由です、速くやる必要もありません。むしろゆっくり楽しんでください。
ジグソーパズル開発秘話
まずはモナリザから始まった
私が1960年代に初めて市場調査にヨーロッパ、アメリカを訪問した際、ジグソーパズルが一つのカテゴリーとして確立されているのを目にし、いつの日か日本でもジグソーパズルの市場を作り出したいと思っていました。
そこへモナリザが1974年に日本で公開されるニュースが発表されました。これがジグソーパズルの普及のきっかけになると考え、モナリザのジグソーパズルを探して世界中のメーカーを訪ねました。
フランスのナッサン社、イギリスのワディングトン社、当時西ドイツのラーベンズバーグ社、シュミット社、FXシュミット社等を訪問し、各社のモナリザのジグソーパズルを、各地の薄暗いホテルの部屋で組んだ思い出が昨日のことのように思い出されます。
その中から印刷、カットの技術、カードボードの品質がジグソーパズルの楽しさに大きく関係している事を勉強しました。そして、FXシュミット社の製品を中心に日本での輸入販売を始めました。
モナリザのジグソーパズルはモナリザ公開と同時に大ヒットとなり、ジグソーパズルは一躍多くの人の注目を浴びるものとなりました。私達はそれによって、ジグソーパズルは日本に定着したものと慢心してしまいました。
時を同じくして輸入した風景のジグソーパズルはある程度は売れたものの、大量の売れ残り商品を抱えてしまいました。
また、当時の日本の社会情勢は高度成長のまっただ中、残業に続く残業で、お休みも返上して国民全員が働いていた時代です。モナリザは別として、販売店に風景の絵柄のジグソーパズルをご紹介しても、こんな時間のかかるものを誰が遊ぶのですかと、多くのお店では取り上げてもらえませんでした。
しかし当時のマスコミには、週休二日制、高齢化社会の到来を予告する記事が出始めていました。余暇が出来た時、あるいは、高齢化社会が到来した時、必ずジグソーパズルが受けいれられる、こんな面白い商品が売れないわけはない、との自信がありました。
こどもジグソーパズル誕生
そんなジグソーパズルの普及を夢見ていた当時、発祥の地であるイギリスの文献を集めて勉強したところ、ジグソーパズルは、1760年代に子供に地図を教えるため、地図の絵を彫り込んだ銅板を小さくカットし、元に戻させながら勉強させたのが始まりであった事を知ったのです。
そこで私は今5歳のお子様にジグソーパズルの面白さを覚えていただければ、20年後には25歳となって、ジグソーパズルが大人の方にも楽しんでいただけると考え、日本で初めて「こどもジグソーパズル」を発売しました。
ディズニーキャラクターの版権を取得して、ディズニーの絵柄のジグソーパズルを発売したのもこの頃です。その後の東京ディズニーランドのオープンで、ディズニーキャラクターの人気がますます高まり、それにつれてジグソーパズルの普及もはずみがつきました。
品質の追求
なぜ外国の風景ジグソーパズルが日本で売れなかったかの勉強は大変有意義でした。
それは、絵柄に関しての好みが、日本人の感性とヨーロッパの感性では大きく違っていたのです。
また前述の通り、ジグソーパズルの品質には、優れた印刷、抜く技術、カードボードの素材といった要素がありますが、いずれも当時の日本では確立していないものでした。
印刷に関しては、高度の美術印刷の技術を持つ会社を見つけることで解決しました。カットの技術に関しては、ヨーロッパ各社の工場を訪問する事により、その技術を修得し続けました。
一番の問題はカードボードの品質でした。ヨーロッパ各メーカーは、グリーンボードと呼ばれる北欧の柔らかいカードボードを使用していました。しかし日本にはジグソーパズルの歴史がなかったため、箱を作るための堅いカードボードしかありませんでした。
最終的に、製紙会社のご協力を頂き、新しいチップを混ぜたジグソーパズル用の柔らかいカードボードを開発することに成功しました。
当社の製品と他社の製品とを組み比べて頂いた方ならお分かりになると思いますが、何かが違います、それは製造方法が違うからです。
当社のジグソーパズルを組んで、裏側からご覧になるとわかりますが、カットラインが大変細く、すき間がありません。ピースとピースの間隔が広がると、当然ゆるくなり、間違ったピースでも入ってしまうことになります。
そうすると、組んでいく途中、このピースが正しいのかどうかが分からないという不安をいだいてパズルを組み続けることになります。
すき間のないパズルを作るためには、カードボードの素材、カットの技術も重要ですが、もうひとつ刃の摩耗ということがあります。何万個ものパズルをカットするうちに、刃は段々切れなくなり、最後の方はカードボードを押しつぶすようになります。
そうなるとピースとピースの間隔が広がりますので当然ゆるくなり、間違ったピースが入ることになってしまいます。
そこでテンヨーでは、一定の数量までカットしても品質が変わらなくするための、まったく独自の技術を開発しました。その手法についてはご紹介できませんが、これによって、安定した品質のパズルをお届けすることができるようになりました。
さて、そのようにピッタリ組み上がるジグソーパズルを開発したものの、こんどは、それをバラバラにする方法を考えなければなりませんでした。組み合せがゆるいパズルならば、バラバラにするのは簡単ですが、しっかり組み合っている品質の良いジグソーパズルを完全にバラバラにする技術を開発することは、思ったより大変でした。
私たちはジグソーパズルの魅力に惹かれ、最初の頃は年に合計20万〜30万ピースのジグソーパズルを組んでいましたが、それは品質管理と紛失ピースの確率追求も大きな目的でした。日本のように四季があり高温、多湿、乾燥を繰り返す土地で品質を安定させることは、合紙を繰り返すジグソーパズルにとって大変でした。
いまでも自社の新製品は実際に組んでみて、品質の情報を工場に流し、品質向上のデータ作りに役立てております。
ピースの紛失とサービスカードの発明
いままでに私たちは、5000箱のジグソーパズルを組んでおり、平均1箱600ピースとして合計300万ピースを組み上げた計算になりますが、紛失ピースが見つかったのはたった3箱しかありません、2ピース以上が同時に無かったケースは皆無です。
しかし、組み上がった時にピースが無いとがっかりした事は沢山ありました、しかしそれらのピースはあとになって、庭から、コタツの布団の中から、ズボンの裾から、掃除機の中から、屑箱の中から、遠く離れた灰皿の中から等、考えられない場所から見つかりました。
それらの経験から、時間をかけて楽しむジグソーパズルにとって、紛失ピースの問題は避けることができないと判断しました。
そこでサービスセンターを設置し、商品の中に入れた請求カードに必要なピースの位置を書いてお送りいただけば、そのピースだけをお送りするシステムを作り上げました。いまではフリーダイヤルのファクスでも受けられるようにして、即日紛失ピースをお送りする体制をコンピュータを使って作っております。
このように、テンヨーのジグソーパズルは印刷、品質、管理、サービス、どれを取り上げても世界一と自負しています。